「時計87」の投稿で「クロノメーター」規格について述べた。
そして、その結びで、更に一歩進んで欲しいと述べた。
時計好きの皆は御存知だと思うが、その後クロノメーターは私の想いとは別の方向に一歩進んでしまった。それが「Master Chronometer(マスター・クロノメーター)」規格である。
これまでのスイスクロノメーター検定協会(COSC : Controle Officiel Suisse des Chronometres)の検定に加え、スイス連邦計量・認定局(画像参照。METAS : Swiss Federal Institute of Metrology)にて設定した検定に合格した時計にマスター・クロノメーターと言うクロノメーターを超えた認定を行う事となった。マスター・クロノメーターは完成品(時計のケースにパッケージングされた状態)で検定を受けるのがまずこれまでと違う。(クロノメーターはムーブメントのみの検定となる。)
歩度や姿勢差、温度に依る精度は勿論、パワーリザーブや防水性等も検定項目となっているのだが、このMETASでの検定の要となっているのが機械式時計の天敵である「磁気」である。
15,000GAUSS(ガウス)の磁場に触れた際、時計のムーブメント及び各機構に問題が無いか、そして一日平均の精度誤差に影響が無いかを検査するらしい。この検定合格したマスター・クロノメーターは、取り敢えずOH(オーバーホール:定期メンテナンス)するまでは現在最高の実用機械式時計と言って過言では無いだろう。
さて、15,000GAUSSと言えば、「OMEGA」が開発した「Seamaster Aqua Terra 15,000 GAUSS」が真っ先に思い浮かぶ。(同名の投稿参照)
その後は私の展望通り、通常モデルにも同等の耐磁性能が与えられてきており、誰でも日常的に機械式時計を使い易くなった。
そしてこのマスター・クロノメーターを初認定した時計もやはりOMEGAである。
だが、その前に15,000GAUSSに耐えられる機械式時計は現状OMEGA(「SWATCH GROUP」傘下ブランド)しか存在していない。つまりマスター・クロノメーターは今の所OMEGA(及びSWATCH GROUPの時計ブランド)しか合格出来ない規格と言えるのだ。
これは正直「ROLEX」等のライバルからリードする為のOMEGA(SWATCH GROUP)の策略では無いだろうか?
現在のスイス時計業界の中核を担っているSWATCH GROUPが、新しい検定として磁気の影響を加える事を提案、SWATCH GROUPに逆らえないスイス時計業界は新たな規格を承認。1,000GAUSS程度であればこれまでの耐磁時計でも対応出来たのだが、15,000GAUSSに耐え得るとなると、OMEGA以外の全てが脱落する仕組みだ。
ライバルはクロノメーター規格でOMEGAのみが完全に上位のマスター・クロノメーター規格となる。これまではいくらスペックで勝っていてもライバルと同等と言う扱いだったが、明確に規格からOMEGAが上だと公言出来る状況を作った訳だ。
これはSWATCH GROUPの耐磁を含めた絶対的なスペックへの自信と、SWATCH GROUPの影響力の強大さが共に伺える出来事と言えるのではないだろうか?
個人的には、様々な場所で磁気の影響を受け易い昨今ではSWATCH GROUPの目指す方向性は素晴らしいと思う。しかしこのマスター・クロノメーター規格はどうなのだろうか?この登場の所為で、第三者に因る検定として安心出来たクロノメーターさえ、やはりSWATCH GROUPの息が掛かった機関に思えてくる。(そうで無いとしても、公的な機関に十分な圧力を掛ける事が出来ると言える。)
私としては、もっと別のアプローチでも良かったのではないかと思うのだ。SWATCH GROUPは好きなブランドが多いのだが、今回の遣り口は気に入らない。
この投稿内容は、私の想像であり、本当の処は解らないが、マスター・クロノメーターと言うOMEGAしか合格しない検定が(公的に)誕生したのは事実である。皆はどう思われるだろうか。