某宝飾時計店にて約1年振りに「TAG HEUER」のフェアを開催していたので見に行ってきた。
因みに前回は「某宝飾時計店39」の投稿で述べた様に、「Monaco V4」及び「CARRERA MIKROGRAPH 1/100th of a second Chronograph」の2つのTAG HEUERらしさを体現した時計を見る事が出来たので、個人的にも価値有るイベントであった。
今回もコンプリケーション等の面白い時計が展示されている事を期待していたのだが、並んでいる時計はどれも普通のモデルばかりで拍子抜けだった。(一応限定モデル等は有るのだが、別に個性的な時計と言う訳では無い。)
これはどうやらCEOが「ジャン・クリストフ・ババン」氏から「ジャン・クロード・ビバー」氏に代わった事が原因のひとつの様だ。
勿論、コンプリケーションウォッチは絶対数が少ない為、展示自体が難しい事も有る。どうしても欲しい方に優先的に見て貰う必要が有る為、最近では田舎の富山等で開催されるイベントに特別なモデルを展示する事はかなり難しくなっているらしい。
さてCEOが代わった事がどう影響するか、だが‥やはり「ZENITH」の方向転換が思い浮かぶ。「ティエリー・ナタフ」氏時代の所謂ラグジュアリー路線から「ジャン・フレデリック・デュフール」氏に代わり原点回帰を目指した。
今回のTAG HEUERも実はこの状態に近いらしい。私が感じたババン氏の目指したTAG HEUERは、カーレースとその計測に帰結するモノだと思う。そして私はこの方向性が非常にTAG HEUERらしくて良かったと考えている。ベルト駆動にしてもクロノグラフにしてもちゃんとモータースポーツらしさを独自に表現していた様に思えるのだ。
尤も、TAG HEUERとしては、複雑機構が売りの時計ブランドと言う印象は無く、実際にそれ程売り上げに貢献はしていないのかもしれない。新たに就任したビバー氏は、この点を主眼に置いた戦略らしい。
TAG HEUERには複雑機構は必要無く、「LVMH」の時計部門においてエントリークラスの価格帯の時計ブランドと位置付け、所謂低価格帯をTAG HEUER、中価格帯をZENITH、そして頂点の高価格帯には、これまで自身が育て上げた「HUBLOT」を据えたヒエラルキーを作る方向らしい。
私の個人的意見だが、LVMHグループとしてならこの方向性は正しいのかもしれない。それぞれのブランドの購買層が被らない為、グループ全体の売り上げにも効果が有るだろうし、ブランドのステップアップも解り易い。しかし、それでも私はビバー氏の目指した方向性の方が好ましい。
私にとってブランドは階層を意味するモノでは無く、自分が最も気に入ったモノを選ぶ為のひとつの指針で在って欲しいのだ。それは価格に左右されるモノでは無いと思う。
例えば、カーレースが好きでTAG HEUERを選んだ方とムーブメント「El Primero」に魅力を感じZENITHを選んだ方は、どちらも拘ってその時計を選択したと言えるだろう。当然価格差は有るが、根本的に求めているモノが違うので、自分の好みに優劣を付ける事は出来ない。
しかし、今後ヒエラルキーが出来てしまうと、TAG HEUERはZENITHを買えない方用、ZENITHはHUBLOTを買えない方用と穿った見方も有り得るのだ。
ビバー氏の時代ではそれぞれが個性を発揮しており、その目指す方向に特化していたのだが、ババン氏率いる今後、特にTAG HEUERは一般的(汎用的)なモデルばかりになりそうな予感がする。(因みにババン氏はビバー氏にライバル的な考えを持っており、決して同じ道は歩まないらしい。)
取り敢えずTAG HEUERがこれからどう変わっていくかは、注目せざるを得ないが個性的な機構のモデルが激減するとなれば寂しい限りである。
尚、スタッフに言われるまで全く気が付いていなかったのだが、TAG HEUERのエンブレムが変更になっている。画像の左が新デザイン、右が旧デザインである。旧デザインはTAGの文字が重なっており、Gはレースをイメージしてか矢印(時計)がモチーフになっている。新デザインは到ってシンプルになった。ここら辺もババン氏の影響なのだろうか?