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Channel: 心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく・・
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某宝飾時計店46

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行き着けの某宝飾時計店にて「SEIKO PREMIUM FAIR」が開催されており、そのイベントの中で「某宝飾時計店10及び11」の投稿で述べた「Grand Seiko」の「MECHANICAL HI-BEAT 36000」のムーブメント「Cal.9S85」の組立作業の実演を今回も行うと言うので見に行ってきた。

前回は「雫石高級時計工房」の「大平晃」氏が組み立てを行っていたのだが、現在大平氏は引退され、技術者の育成の立場に在ると聴いた。今回の実演は「平賀聡」氏。この方も優秀な技術者で、時計の組み立て等の技術を競う大会でも優勝経験が有る程の実績を持つ。

基本的な組み立ての実演構成は前回と殆ど変わらなかった為、内容については割愛するが(詳しくは「某宝飾時計店10及び11」の投稿参照)平賀氏もやはり素晴らしい技術での組み立てやテンプの降れ取りも見る者を魅了する事が出来る位であった。

現在、雫石高級時計工房でも3本の指に入るトップクラスの実力者である平賀氏だが、その後に続く人材の育成を大平氏が行っているのならば「SEIKO」は安泰と言えるだろう。

さて、今回の実演で、前回に無かったモノと言えばヒゲゼンマイについてである。
「Cal.9S65」登場以来ヒゲゼンマイの素材に採用されている「SPRON610」。このそれまでのモノより劇的に性能が良くなった事を見せて頂いた。

ヒゲゼンマイはテンプの往復運動を司り、伸縮によって振り子と同じ役割を果して正確なリズムを刻む。美しい同心円の伸縮が必須でこれが狂うと精度に大きく影響するのだ。

トゥールビヨンと呼ばれる複雑な機構もこのヒゲゼンマイの同心円を守る為と言って過言では無い。重力に因って下方に引かれ撓むヒゲゼンマイを強制的に回転させ、下方へ掛かる力を均等にして同心円を維持し精度を保とうと言う考え方に基づく機構である。
しかし現実にトゥールビヨンは(腕時計の機構としては)理論上の精度がなかなか発揮出来ない。それは機構が複雑化しエラーの発生が増えるばかりでなくどうしても作動させる部分が重くなる為、トルクを多く必要とし、結果として正確な往復運動をさせる為のトルクが不足するからと言われている。(正確には、トゥールビヨンに使うトルクを動力に割り振った方が精度が維持し易いと言う事だが。)

更に複雑機構になると価格も上昇し、故障も起き易い。その為私を含め一般の方にとってはトゥールビヨン搭載の腕時計は高嶺の花である。
ではどうすればより良い精度が得られるか?
答えはトルクの向上やシステムの簡略化、そしてヒゲゼンマイの高性能化となる。
様々な時計ブランドが、最も効率良く精度を向上させる為にヒゲゼンマイの素材の見直しを行っている。パラクロムやシリコン等の新素材も多く使われてきている昨今、Grand SeikoではSPRON610を採用。
従来より大きく向上したのが耐衝撃性。実演では以前のヒゲゼンマイとSPRON610採用のヒゲゼンマイを4cm引っ張りどれ位ヒゲゼンマイにダメージが有るかを見せてくれた。
従来のモノはやはり広がったまま元の形状には戻らなかったが、SPRON610のモノは再び同心円の形状に略復元した。
これは衝撃に因ってヒゲゼンマイに大きな力が加わっても同心円を維持出来るかどうか、即ち、精度が維持出来るかどうか、と言う事である。4cmに引き伸ばす事が実際にはどれだけの衝撃に相当するのかは解らないが、これまでだと復元出来なかったダメージでもSPRON610なら大丈夫と言う事が解った。

また、Grand Seikoではこの様に新型のムーブメントを開発しても基本的な設計は出来る限り変えないらしい。輪列の配置や歯車等の形状は踏襲されているらしいのだ。
昔のGrand Seikoのガンギ車とアンクルが故障したとして、どうしても部品交換が必要となった場合、現在の「MEMS」で作られたモノと交換する事も可能となっているらしいのだ。
勿論ヒゲゼンマイが故障した場合もSPRON610に交換出来る。
この様に素材が新たに開発されても古い時計のその新素材を用いたパーツを流用出来ると言う事は、時計を修理しながら長く使う点に於いて大きなメリットだと言える。
殆どのパーツを自社で手掛けるSEIKOで、特にGrand Seikoの一貫したベーシックな実用時計としてデザインが過去から受け継がれているからこそ可能な事なのかもしれない。出来る事なら他ブランドも見習って欲しいと思う。

何度見ても優れた職人の技は本当に凄い。そして素材の革新等見えない点でも進化を続けているSEIKOは流石日本企業だと誇らしく思わせてくれた。とても良いイベントだったと思う。(画像1、2。画像1はGrand Seikoのムーブメント、画像2は文字盤側で「GS」の文字が刻まれている。)

尚、今回のフェアで一番気になった時計は、サンプル品だったが「GALANTE」の10th Anniversary Limited Editionである「SBLA091 ”BLACK PANTHER”」。(画像3)黒豹と名付けられた「SPRING DRIVE」のクロノグラフである。色使いが非常にセクシーで本当にGALANTEらしいと思った。

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