今年もSIHH(ジュネーブサロン)の話題が耳に届く様になってきた。新作の時計情報が飛び交う季節である。
そんな中、気になる時計が発表された。「PIAGET」の時計である。
PIAGETはこのブログでも何度と登場しているブランドでSIHHの新作としてもこれまで「Altiplano 43mm」と「Altiplano 38mm 900P」と言う世界最薄を争うモデルを紹介してきた。
まさに薄型ドレスウォッチの雄として君臨するブランドである。
今年の新作は別に世界最薄の記録更新と言う訳では無い。
「Emperador Coussin(Cushion-Shaped) XL 700P」。(画像1~3。画像1は正面、画像2は背面、画像3は斜めから見た状態。)
デザイン的にはこれまでの「Emperador」のトゥールビヨン等を踏襲したスケルトンウォッチで非常に美しい。
しかし、この時計にはトゥールビヨンキャリッジが無い。‥それどころかスケルトンなのにテンプさえ見えないのだ。
そう、この時計にはテンプが無いのである。何とクォーツと機械式のハイブリッドなのだ!
Emperador Coussin XL 700Pは、PIAGETが自社製クォーツムーブメント開発40周年を記念して作られた時計で、限定118ピースが製造販売される特別な時計だ。
さて、非常に美しくPIAGETらしい繊細さを十分発揮したこのEmperador Coussin XL 700Pだがクォーツと機械式のハイブリッド、とは何処かで聴いた事が無いだろうか?
そうSEIKOの「SPRING DRIVE」(以降SD)である。私もSDを所有したく、遂に「GALANTE」の「SBLA085 ”Artemis”」を購入した事を「時計92及び93」の投稿で述べた。
日本の誇る唯一無二の機構であったクォーツと機械式のハイブリッド。今回のEmperador Coussin XL 700Pに搭載される「Cal.700P」(画像4。右がダイヤル面、左が背面。)も内容的にはSDと同じ様な感じだと思われる。
まだCal.700Pの詳しい性能やスペックが明らかになっていないが、現状解る範囲でSDと比較してみた。
薄さやスケルトン等の仕上げを含めた機械式時計としての美しさは圧倒的にEmperador Coussin XL 700Pに軍配が上がる。この点は流石老舗のスイス時計ブランドであり、宝飾ブランドとしても名を馳せているだけ有ると思う。
勿論SDも「CREDOR SIGNO 叡智供廖米洩召療蟾道仮函謀両綉薀ラスで在れば、その美しさは別格なのだが、PIAGETは何と言うか‥高級時計と言うモノを解っているのだ。SEIKOは良くも悪くもエントリークラスからマスターピースクラスまで手掛ける時計会社である。そしてどちらかと言うと精度等を含めた性能に重きを置いている為、高級感より実用面がどうしても前面に出てくるのかもしれない。更には価格帯の違いも有る。SDは数十万円からなのだが、このEmperador Coussin XL 700Pは70,000CHF、現在の日本円で換算しても800万円を超える価格である。当然相応の仕上げであって然る冪だ。
他にPIAGETらしいマイクロローターを採用している点も良い。スケルトンと言う事も含め、特殊な機構を存分に楽しむ事が出来る時計である。
Cal.700Pは背面側にパワーリザーブインジケーターも備えている。SDも備えているが背面と言うのはマイクロローター採用のメリットのひとつだと思う。但し、パワーリザーブの時間についてはSDが72時間なのに対してCal.700Pは42時間。
私のSBLA085のムーブメント「Cal.5R66」はGMTとデイト付だがCal.700Pはデイト無しのシンプルな時計だ。尤もこれに関しては好みも有るだろう。大きな違いと言えば秒針の有無だろうか。ドレスウォッチとしては2針が王道でありEmperador Coussin XL 700Pはその王道の時計である。(一応スケルトンの為、文字盤側から調速機構が見えるので動いている事は確認出来る。)しかしSDの場合は秒針の滑らかな動きも売りにしており、スイープ秒針も醍醐味のひとつと言える。
ムーブメントの信頼性としては圧倒的にSEIKOだと思う。クォーツ、そしてSDと言うハイブリッドムーブメントについては蓄積されたノウハウが既に大差であろう。高級時計としての魅せ方がPIAGETならハイブリッドムーブメントの歴史はSEIKOである。耐久性も段違いだと思う。
更にSEIKOのSDは量産体制が確立されており、日本国内に於いては、修理等も問題無いが、Cal.700Pはそうは行かないだろう。限定118で今後同じムーブメントが製造されるかどうかも解らない上に価格も高額。日本で購入した場合、OHはまずスイス送り確定だろう。
以上を踏まえて、実物を見ていない為、推測の域を出ないが、同価格で無い限り私はSDを選ぶと思う。(同じ価格で仕上げが現状のままなら100%Emperador Coussin XL 700Pを選ぶが。)
正直に言って、Cal.700PはSDの真似と言うか二番煎じと言う印象なのだ。
唯、Emperador Coussin XL 700Pの評価に拠ってはSDの評価にも多大な影響を与える事になると思う。世界の時計産業の中心とも言えるスイスが、漸くSEIKOと同じ域に踏み込んだのである。その中でも大きな影響力を持つPIAGETとなれば世界中が注目する。そしてそのPIAGETに先んじて作られたSDは、漸く正当な価値を認められるかもしれない。